「僕は歌うことと踊ることしかできないですから。皆がこうして来てくれるんで、36年ステージに立っていられる。皆がいなかったから、僕は終わりですから」
歌手・田原俊彦(54)が、8月29日の東京・町田市民ホールから10月31日の滋賀・守山市民ホールまで全9公演のコンサートツアーを終えた。MCでは、ファンとの距離を少しでも縮めようと最前方に立ち、ステージからつま先をはみ出させて宙に浮かせながら、冒頭のように語りかけた。
デビュー36年目となる今年のツアーは、『悲しみTOOヤング』『ピエロ』『君に薔薇薔薇…という感じ』『チャールストンにはまだ早い』『恋=DO』『原宿キッス』『哀愁でいと』を約13分間にわたるメドレーで魅せるなど豪華なセットリストだった。また、嵐のツアーへの参加歴もあるサックスの海野あゆみの加入もあって、音質にもこだわりを見せていた。
今ツアーでは、男性ファンの姿が目立った。かつては9割5分以上女性ファンで占められていたが、会場によっては3割近い男性ファンが集まり、「トシちゃん会いたかったよ!」「トシちゃんカッコいい!」という野太い声がこだまし、最前列で田原の振り付けをマネしながら楽しむ観客もいた。
10月16日の中野サンプラザでの公演では、「ゾッコン!」と叫んだ男性に対して、田原が『ZOKKON 命』(ゾッコン・ラブ=1983年発売、シブガキ隊のシングル曲)とポーズ付きで返し、会場の笑いを誘った。『教師びんびん物語』の頃から男性ファンが増えたといわれていたが、コンサート会場で頻繁に見掛けるようになったのは、最近3年くらいだという。芸能記者が話す。
「長かった不遇の時代を乗り越えた田原に、自分を重ねる男性が増えたからでしょう。そして、コンサートに行けば、昔と変わらない歌と踊りで魅せてくれる。自身に対する風向きが良かろうが悪かろうが関係なく、自分にできることを続けてきた姿が、田原のステージにはある。だから、同世代の男性の感動を呼ぶのでしょう」
もちろん、デビュー以来36年間応援し続ける女性ファンも数多存在する。当時、10代だった彼女たちも、いまや40~50代になった。MCになると、田原は長年連れ添ったからこそ吐ける毒舌を交えつつ、ライブ開始からずっと立ちっぱなしの観客に対して、「座っていいよ」とさりげない優しさも見せていた。ファンの一人はこう話す。
「正直、ライブの2時間ずっと立っているのはキツい。でも、座るタイミングがわからないし、立っているしかないんです。だから、トシちゃんがそういってくれると、すごく助かるんですよね」
バラードを歌う前に田原が「座っていいよ」と語りかけた後は、ファンはアップテンポな曲になると立ち上がり、バラードになると座るという循環ができあがった。
今ツアーでは、本編ラストに1998年発売のアルバム収録曲である『永遠』を選択。当時、ジャニーズ事務所独立から4年が経過していた田原はメディア露出も減り、厳しい境遇に置かれていた。実際、セールスは芳しくなく、次作のオリジナルアルバム発売まで15年の月日を要した。
そんな状況で発売された『永遠』を、田原は「みんなと僕の曲」と照れくさそうに、少しうつむきながら話した。不遇の時代も離れなかったファンを、田原はいつからか“ファミリー”と呼ぶようになった。“ファミリー”は周囲の勝手な評価に惑わされることなく、田原の曲を買い続け、コンサートには必ず足を運んだ。
皆がいなかったから、僕は終わりですから──。
田原は、実感のこもった言葉をステージにぶつけた。ツアーラストの滋賀公演では、アンコールで『センチメンタルハイウェイ』を歌いながら、1メートルは優に超えるスピーカーの上にジャンプして飛び乗ったり、ステージ横の花道に出ると目の前にあった客席の手すりに両足で乗っかったりと、まるで10代のようなパワフルかつバランス感覚の良い動きを見せ、会場を狂喜乱舞させた。
体中に湿布を貼りまくるほどの満身創痍。それでも、ステージで精一杯歌って踊り続けることで、田原はみずからを投影する男性ファンや『永遠』を誓ったファミリーに恩返しをしている。
(この記事はエンタメ総合(NEWS ポストセブン)から引用させて頂きました)
次回もお楽しみにね!